2010.01.01

「トラバター」 兵庫県民間病院協会会報 2010年1月号

 寅年が始まりました。明けましておめでとうございます。

 トラといえば、小さい頃の絵本(現在は差別用語として禁止されているようですが)「ちび黒サンボ」を思い出します。四匹のトラが、男の子の新しく買って もらった上着とズボンと傘と靴をお互いに争い取り合って、お互いの尻尾をくわえて椰子の木の周りをぐるぐる回るのです。そして挙げ句の果てに溶けてバター になってしまうという、人のものを欲しがってはいけない、けんかするなという教訓はあっても、子供の絵本にしてはちょっとブラックユーモアの不気味さが残 るお話でした。得をしたのは洋服や靴をトラにあげた心優しいサンボがおいしいトラバターでホットケーキをお腹いっぱい食べたことでした。
 さて、今年はまた医療費改定の年です。政権交代してわずかに実質アップとの決定はされましたが、開業医の再診料を引き下げ、救急や小児科、産科、勤務医 にまわすなど、いまだに、開業医と病院との溝をつくるような姑息的な考え方から抜け出せていないようです。病院と開業医とで医療費を取り合い、各科間で取 り合い、介護保険とも取り合い。お互いに尻尾をくわえてぐるぐる回る、回らされている私達はいつの間にか力尽き果て溶けてバターになってしまうかもしれま せん。開業医と病院は決して対立するものではなく、それぞれの特徴と機能を発揮し、連携し合ってこそスムーズで有効な医療が提供されるものです。お互いの 尻尾をくわえ合ってけんかさせられては一緒くたにバターになってしまうのも時間の問題かもしれません。それを椰子の木の陰からそっと見ているサンボは、お いしいバターでホットケーキを食べるのは一体誰なのでしょうか? いろいろな誘導政策に右往左往して小さな餌にとびついてお互いを食い合いしないでゆった りと医療ができるそんな医療環境を願ってやみません。

兵庫県民間病院協会会報 2010年1月号

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