2011.01.01

病院めぐり7西宮市医師会会報「談話室」2011年1月号

病院めぐり7

  二年前になりますが、「武庫川脳病院から80年」と題した、レトロ感覚の表紙の記念誌を発刊させていただきました。(写真)
上ヶ原病院は西宮市内では回生病院に次ぐ、その80年の長い歴史を背負っています。原点武庫川脳病院は、現在兵庫医科大学として武庫川のほとりにそびえ、 西宮市医師会とは別ながらも西宮市の医療環境に大きな存在となっています。武庫川脳病院は名の通り精神病院であり、1953年武庫川病院と名前が変わって も西宮の、いや日本の精神科医療の中心的活躍をしてきたとききます。1961年国民皆保険が実施された年に新武庫川病院として、内科ほかの科が増え、 180床のいわゆる総合病院に、兵庫医科大学の母体病院となるべく発展してきました。兵庫医科大学になってからもしばらく、私が卒業するのを待っていたか のように、最後まで残っていた武庫川病院のスタッフともども引っ越してきたのが1979年現在の上ヶ原病院の原点です。(詳細は記念誌参照)。一方、現在 の上ヶ原病院のハードは戦前から結核病院が営まれ、数々の有名人、作家が療養され小説に登場しているものもあります。西宮市内でも雑踏から離れ療養に適し た自然環境に恵まれた立地であったからでしょう。
 このような歴史を背負って今で言う療養病床、老人病院としてのスタートでした。
自分が院長であるとは自覚無く、いつまでも兵庫医大で移植をはじめとする血液内科に身を置いた無責任な状況が続いていました。しかし、医療制度や環境の変 化に対応すべく、1994年にやっと兵庫医科大学から完全に自立、法人化となりましたとたん、阪神淡路大震災に見舞われたのです。西宮市内では機能不能状 態になった病院は一軒だけ。入院病棟が復旧するまで7ヶ月、また新病院の建設にもう一年。これを契機に無菌室など血液疾患をやっていけるための設備を組み 込みました。
 当時は一般病院で血液疾患をみようという、大胆な発想。震災前はなかなか認知していただけていませんでしたが、新しい病院になり、無菌室と準無菌室、 ICU内にも準無菌室を作り、兵庫医大から移植経験豊富な医師を招き,現在では外来もしかり、常に30例くらいは血液疾患でベッドがうまっています。
 介護保険が成立し(1997年)いち早く訪問看護ステーション「すまいる」を、旧病棟を介護老人保険施設「陽喜な家」に改造し、地域医療に深く関わる樹徳会が完成しました。
 さて現在、樹徳会上ヶ原病院は内科を主とした一般92床、療養24床のケアミックス。
歴史からみても老人医療は得意分野。在宅高齢者の急変。熱性疾患、だんだん弱って食べられない。など、先生方のお役に立てるかと思います。認知症は精神科 医療の歴史から精神病院との連携も深く、週に一度の精神科医の回診もあり、内科医もその度に知識の整理ができていきます。
 血液疾患に関しては学会認定指導病院として認定されており、外来入院問わずご紹介いただいています。最近の治療の進歩により入院せずに外来で経過できる 方も多く、化学療法外来も随時です。これまで治癒という言葉はあまり使わなかったのですが、治癒といってもいいと思われる方も多々でています。
高齢だからといって化学療法が敬遠されがちですが、最近は副作用に対する支持療法もよく、お元気な方には充分治癒をねらっていける化学療法もしています。もちろん大量の抗がん剤が必要な方には無菌室を使い、自己末梢血幹細胞移植も行います。
 その他の一般内科、消化器内科は経験豊富な医師をそろえており、研修医が出てくることはありません。ご安心ください。
 今年度から整形外科医が一名常勤になりました。入院患者さん、特に高齢の方は整形外科疾患を合併している方が多くこれまで不便していましたが、一名の整形外科医は引っ張りだこです。もちろん外来もリハビリの相談もいたします。
 上ヶ原病院は市内で二番目に禁煙外来を開設しました。今年は値上げ効果もあってか、予約は満杯です。ご多分にもれず、チャピックス品切れ事態も経験しています。
 もうひとつ今年のトピックスです。放射線障害のための外来が始まりました。以前から高気圧酸素療法だけが効果があるとされていた放射線照射後潰瘍や放射 線性骨髄炎。照射後の出血性膀胱炎、出血性直腸炎など。高気圧酸素療法を継続している施設が少なく、特に近畿地方は手薄。兵庫県立粒子線センターのご紹介 で次々と照射後の患者さんが来られるようになりました。今では週に一回、粒子線センターからの医師が外来をもち、遠く赤穂、松山、佐世保からも入院治療に 来られています。粒子線で癌が治った後に、忘れた頃に出てくる照射後障害。疼痛、潰瘍、出血、開口障害など、入院してこられるケースは悲惨です。粒子線に 対する認識が否定的になってしまうのですが、悲惨なケースばかりを紹介下さっているので、ほとんどの方は後遺症無く治癒するということです。練炭など一酸 化炭素中毒の症状改善にも高気圧酸素療法をしますが、自殺が増加している時勢にあり、高気圧酸素の予約も満杯になっています。
 いろいろ書きましたが、上ヶ原病院の基本的スタンスは地域医療。西宮市、周辺の先生方の後方ベッドとして、いつでも使っていただき、信頼していただけるような病院でありたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(院長 大江与喜子)

西宮市医師会会報 「談話室」 平成23年1月号巻より

 

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