2017.05.01

「医者の養生、不養生」          西宮市医師会会報 《談話室》 2017年5月号

 労働時間や残業時間の規制が法律化されようとしています。仕事、残業のしすぎ、やらせすぎでの自殺や過労死が管理側の責任とされ、法的に守られようとすることは遅ればせながらではありますがとても重要なことです。誰かが命を落とさなければ問題視されず、何人かの犠牲の後に初めて民意として法制化されていくのですね。ただし、この中に医師は入っていません。もちろん、院長である管理者は蚊帳の外なのです。研修医の勤務形態が現在の形になったのも、やはり研修医の過労死が発端であったことは記憶に新しいところです。みなさん働きすぎではありませんか?管理者は自分で自分を守らなくてはならないのです。

 男女共同参画の動きを受けて、平成11年に廃止されましたが女性労働者の夜間勤務禁止の法律でも、医師、看護師は含まれていませんでした。医師は自分で自分の責任の下に健康管理と労働規制をしなければなりません。皆さんが一度は必ず経験したであろう当直勤務。寝当直であろうが救急当直であろうが(疲労度、緊張度は全然違いますが)時間拘束され、勤務時間となるべきはずが、24時間体制の救急部ではいざ知らず、つい最近までは当直勤務はそれなりの給与で保障され、特に仮眠ができるのであれば当然、代休をとる常識がありませんでした。勤務医が他病院で当直バイトをしていても管理側には関係ないため見えてきません。では応急診療所勤務や一次救急、ドクターカーはどうでしょうか。患者さんが多かれ少なかれ、応急診では3時間の超過勤務。休日勤務であります。給与保証はありますが、労働時間保証はありません。西宮市医師会の応急診は深夜12時30分までの勤務ですが、都市によっては深夜から朝までも勤務され翌日また続けて自分の診療所の勤務といった状況もあったようです。勤務医時代、開業当初の意気盛んな時代。また経済的にも働かざるを得ない時期。そして円熟してきてからは、本当に患者さんのために、往診に呼ばれ、在宅で看取り、地域カンファレンスに参加し、自己研鑽の勉強会、講演会、復習、原稿書き・・・等、どこからが仕事で、どこからが趣味(仕事が趣味、勉強が趣味という方も多いみたいですが)と残業時間を気にせず働いている先生方も多いのではないでしょうか? 1日8時間、週40時間という労働基準法を知っていますか?医院、病院の管理者は自分も含めた従業員の健康管理に責任があるのです。

 勤務時間だけでなく、食生活、喫煙、飲み過ぎ夜更かし・・・働きすぎを紛らわすための不摂生と負のスパイラルに落ち込まないようにしたいものですね。医師が生活習慣病であるはずはないと思っている患者さんも少なくありません。まさか、医師だって病気になり、死にます。

 知識として悪いこと、いいことを知っていても実行するかしないかは自分です。病気は生活習慣病だけではありませんし。他人の健診はするけれど、ご自分の健診も忘れないでほしいものです(西宮市医師会診療所健診部では、年数日の日曜日に会員・家族・従業員のための特別日を設けています)。

 体にいいことしていますか・・・? 悪いことしていませんか? 患者さんに尋ねる時に、一緒にご自分にも尋ねてみましょう。患者さんのためにも、自分やご家族のためにも元気でいなくちゃ・・・先日、同級生の医師が肺がんで亡くなりました。64歳。自分の父は63歳でした。働きすぎ人生の二人が重なって見えました。ご冥福を祈るとともに・・・。

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