2017.03.01

「医師の職業倫理と医療安全」     西宮市医師会会報 《談話室》 2017年3月号

 医学、医療の進歩で、人は簡単に死ねなくなり、高齢社会での医療費の爆発が懸念されているのは昨日今日のことではありません。国民皆保険を守りつつ高度医療、高額医療を今後どうしていくか喫緊の課題でもあります。ジェネリック医薬品の使用。病院から在宅へ。負担医療費のお知らせなど国民の意識改革が徐々に浸透しつつあるのを感じます。特に高齢者の終末期医療をどう考えるか、100歳まで生きたくはないとほとんどの人が答えるのですが、何歳だったら満足?という答えは帰って来ません。在宅で亡くなろうとしている高齢者に救急車を呼べば心肺蘇生をしなければならないのが決まりです。胃瘻や高カロリー輸液の是非が問われますが、これらが高齢者の医療費を押し上げている要因にもなっているのは事実です。医療費削減の目的でというのはあまりに寂しいですが、高齢者が終末期にどれだけ医療費を使って穏やかに亡くなることができるか。この問題そして安楽死についてはまだまだ国民のコンセンサスが固まっていません。

 一方、少子化への対策として生殖医療も盛んになっており、技術の進歩に追いつけないほど社会的な問題が山積みです。卵子や精子の提供あり、代理懐胎、着床前診断など親子関係や金銭取引など倫理問題が絡みます。しかしこちらは保険診療ではないので、国民医療費には響きません。医療本質とその結果に対する考え方の問題です。

 もう一つ取り上げたいのは保険診療ということ。保険医である以上保険診療の規定の中でしか医療はできません。医療費の値引きも違反です。やったことだけしか保険請求できないのは当然ですが、それを記録するカルテ、保管は5年間。在宅医療にも、入院医療にも施設基準や人員配置やと、とにかく細かく規定されており、あの分厚い手引き書に基づいて診療費が支払われる仕組みになっています。(今更とやかく言われるには及びませんね〜失礼いたしました)

 日本医師会は平成12年に医師の倫理綱領を作成し、平成16年には医師の職業倫理指針が策定がされました。昨年に第3版ができました。日本医師会のHPよりダウンロードできます。

 医師が尊敬される対象であり、左うちわでやっていける時代は過ぎ去り、少し外れれば非難、訴訟の対象とされるそんな時代になってきています。今改めて、この倫理綱領を読み返し、座右の銘として診察室に掲げていただきたいと思います。患者様、医師同士、社会に対して、誠意を持って対峙できる医師の集団が西宮市医師会であると考えています。


『医の倫理綱領』 〜〜〜 日本医師会

 医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである。

1.医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、


  その進歩・発展に尽くす。


2.医師はこの職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め、人格を高めるように心掛ける。


3.医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容


  についてよく説明し、信頼を得るように努める。


4.医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。


5.医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の


  遵守および法秩序の形成に努める。


6.医師は医業にあたって営利を目的としない。

 

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