2017.04.01

「医師の職業倫理と医療安全〜その2」 西宮市医師会会報 《談話室》 2017年4月号

 前回は医師の倫理綱領について、今一度、認識を新たにしてみました。今回はそれと医療安全との関わりについて考えてみることにいたします。

 医療現場において、どうしても上下関係になってしまう医者と患者。医者ならなんでもわかるはずと、患者は『治してもらって当たり前』と思っています。一方医師は『解らないこともある。治らないこともある。』と常に考えています。その溝を埋めるために、医師はあらゆる知識と技術を使って診断し、治療に努力します。その経過における説明、結果に対しての納得が求められます。たいていの場合はうまくいくのですが、もしうまくいかなかった場合や、思いもかけない結果に終わった時に、医師と患者の信頼関係は崩れて水の泡と化します。誰も悪気はないのに、ちょっとした注意力の欠如から、判断の間違いから、気の緩みから、時には体調不良からでも医療ミスは生まれます。患者に対する思いやりのなさから、説明の不足や思い込みにより、同じことをしていてもミスと見做されることもあります。患者との認識の違いで、価値観の違いで、ミスでなくても受け入れられなかったり、溝ができたり、医療訴訟のタネは地雷のようにどこにでも隠れているのです。

 最近は権利意識が高く、またあらゆる分野で訴訟が増えている時代です。人の体に合法的に傷をつけられるのは医師のみであり、そこには大きな責任と義務が課せられていることは言うまでもありません。治って当たり前、解って当たり前、と思っている人は、医師に対してどれほど大きな期待を持ってきているのでしょうか。治らなくて、解らなくても仕方がない。万能ではないという現実に期待を裏切られ、失望し、そこに思いやりのある説明がなければ、訴訟という場においての説明を求められることもあるでしょう。

 幸い西宮市医師会は医療安全担当の役員を擁しており、訴訟に発展しそうな問題や、事故があった場合に間に立って、話し合いの機会を設け、穏便に解決できるようお手伝いをします。また兵庫県医師会から日本医師会の損害賠償責任保険との交渉もお手伝いいたします。必要な場合には弁護士とも相談できます。医師会に入っている最大のメリットとも言える保険です。

 前回添付しました「医の倫理綱領」の中では「患者」という言葉でなく「医療を受ける人々」となっており、上下関係をなくしています。また説明義務も謳われています。もう一度一行一行読み返してみてください。医学を極め、医療を極めたと自信を持って医療に携わっている方も、もう一つ職業倫理も極めて実践していただくようお願いしたいと思います。そして、せっかくの医師会員であるメリットですが、何度もご用立てがないことを祈ります。

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