2017.02.01

「common disease  ”認知症”」     西宮市医師会会報 《談話室》 2017年2月号

 5人に1人が認知症 という時代を迎えて、そう 医師会会員の中では90人は認知症。満員の甲子園球場では9560人が認知症。一家に一人は認知症。街を歩けば認知症に当たる。認知症のドライバーに当てられる。・・そんな世の中で医師を営む私たちです。認知症の人を診たくないといえば、患者さんは20%減ってしまいますよ。「そんな生活してたら死にますよ」と言うのは今や脅し文句にならず「・・・認知症になりますよ」と言う方が、ずっと怖いと言われます。死ぬより怖い認知症。糖尿病、高血圧、いえ花粉症やインフルエンザに匹敵するくらいの common disease の地位を獲得しています。糖尿病や癌のように、患者さん自身だけが苦しむ病気ではなく、認知症はその人の家族や周囲を巻き込むように、問題が拡大していきます。だからこそ社会全体として取り組まなくてはならなくなっています。思いもよらない交通事故の増加や、徘徊、意図のない暴力や窃盗だったり、騙されたり・・・家庭崩壊に繋がりかねません。

 認知症は現在の医学では進行を抑制することはできても治癒はしない。社会の中で受け入れ、共存し、本人も家族も穏やかに生きていくことが目的となるのです。認知症施策の推進については、国において、平成25年度から、「認知症施策推進5カ年計画」(オレンジプラン)がスタートしており、平成27年1月には、「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)が策定されました。これに基づき、県が整備しようとしている「認知症対応医療機関」名簿。Ⅰ群とⅡ群に分けられています。一群はいわゆるかかりつけ医などの身近な医療機関、日常診療の中で認知症の相談ができる、認知症があっても他の疾患の診療ができる医療機関。Ⅱ群は認知症の専門的な診断と治療ができる医療機関が入ります。その中にも細かい区分があって、AからFまでに分類され、自主登録する制度です。

 専門医療は兵庫県に11ある認知症疾患医療センターですが、阪神南は兵庫医科大学病院にあり、西宮市医師会としては利用しやすい位置にあります。そこでは認知症の専門的な診断をしてくれますが、治療は自院に戻されます。地域の介護やケアに繋いだり、また地域の教育などに携わるセンターです。医師は上記の認知症対応医療機関として、認知症サポート医(西宮市医師会13名)として、認知症専門医として、医療面でリーダーでなければなりません。運転免許証の可否に関する診断書についても、今のところは基準が定まっておらず待機状態ですが、いずれ専門医だけでなく、かかりつけ医にも関わらざるを得ない時期が来るやもしれません。

 医師以外にも認知症の知識は広がっています。西宮市では地域包括支援センターが認知症相談センターとして、住民からの情報をかかりつけ医に繋げる役割を果たします。また認知症サポーター、キャラバンメイト(認知症サポーターを養成する講座の講師となる人)など、認知症に関わる一般市民をどんどん教育、養成しています。彼らの知識、向上心、エネルギーは相当高いです。認知症初期集中支援チームとか認知症ケアパスなど、認知症対応の戦略が次々と実行されようとしています。リーダーとなるべき医師はうかうかしていられません。厚生労働省の定める「かかりつけ医認知症対応力向上研修」を受講し、認知症に関する知識の更新、対応力の向上を心がけ、住み慣れた地域で暮らし続ける患者さんを20%減らさないように努力しなくてはならないのです。

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