2008.09.01

「たかが貧血、されど…」国保ひょうご 視診聴診(ししんちょうしん) 2008年9月号

体中に酸素を運ぶヘモグロビンが足りない状態を貧血といいます。酸素はエネルギー産生に必須ですので、「元気のない弱い人」と病気のうちに入れてもらえず、「たかが貧血、もっとがんばれ」と言われて益々しんどい状況に陥ります。  たかが貧血といわれるには、大きな誤解が潜んでいます。「貧血する」とサ変動詞で使うからです。朝礼で貧血した、駅で、お風呂でなど、ふらーっとする脳貧血を貧血と混同されているようです。名詞「貧血」では、運動時にたくさん酸素を運ぶために心臓ががんばるのでドキドキする、酸素を取り込むために呼吸がハアハアするなどの症状が先にきます。  「貧血」自体が病気というより、「貧血」の裏に潜んでいる他の病気を見過ごしてはなりません。一番多く見られる鉄欠乏性貧血でも、胃癌や大腸がんや婦人科の病気が原因であることは稀ではなく、鉄剤の投与でお茶を濁していると大変なことになります。  また、慢性に経過する貧血では、骨髄異形成症候群を忘れてはなりません。長期に無治療で経過する方もありますが、白血病に進行していくタイプから再生不良性貧血のように白血球や血小板まですべての血液細胞が減少してしまうタイプなど、いずれにしても貧血だけではなく出血や感染症といった合併症が命取りになります。造血幹細胞移植が必要である場合など、治療の難しい病気です。  最近では、色々な病態生理により分化誘導療法、免疫抑制療法や分子標的治療の有効なタイプもわかってきました。新しい治療法で寛解することもあるので専門医での詳しい検査が必要です。  奥の深い「貧血」なのに、この春はじまった特定健診では詳細項目にされてしまいました。ちょっとした症状の気配に気づき貧血の検査も忘れないようにしたいものです。駅ではまっすぐエレベーターを選んでしまう方、ちょっとした階段や坂道でハアハア、ドキドキしていませんか?いつまでも歳のせい、運動不足のせいにしておきますか?

国保ひょうご 2008年9月号 視診聴診(ししんちょうしん)より

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